太陽系の秘密



 最近、わが愛機である、PCのケイトちゃんのご機嫌がよろしくない。

 ちょっと待った。TERUさんってば、いい歳こいて、PCに名前なんてつけてるの? と眉をひそめたあなた。エッセイの「じゃじゃ馬馴らし」をぜひお読みいただきたい。

 ま、そんなわけで、ケイトちゃんと名前の付いた、わがPCなんですが、基本的には古いパーツを寄せ集めて作った、激安自作パソコンなので、組み立てられてからわずか一年で調子が悪くなるのも、いたしかたない。

 いや、しかし!

 バックアップを怠った罰が当たったとはいえ、失ったデータはあまりにもでかかった。今回はなんと、召しませMoney!の続編が、かなりの大打撃をくらって、なんだか、しばらく立ち直れない予感……完全に失ったデータは2000行分ぐらいだけど、6000行まで書き進んでいた部分に、かなり大幅な手直しをした後だったので、気分的には、6000行全部を失ったように感じる。悲しすぎる。大ショックだ。

 それだけじゃない。仕事で撮影した写真データは、さすがに作成した直後に、すべてバックアップをとる習慣が付いているので、すべて救われたけど、それ以外のデータがいくつか消失した。請求書とか……まあ、請求書はまだいい。すでに発送済みのものは。問題は、これから送る予定の請求書のために、経費やスケジュールなどを記録しておいたExcelファイルがなくなったこと。じつは、HDDがクラッシュした翌日、仕事先から、仕事で行った取材先のリストの提出を求められて、「はいはい、いいですよ」と答えて電話を切った直後、それもバックアップをとっていなかったことを思い出し、いま、少し冷や汗をかいている。どうしよう。困ったね。なんと、言い訳しようか(苦笑)。

 ところで、このエッセイのタイトルが、なぜ「太陽系の秘密」なのか、そろそろ気になりだしてる人もいるんじゃなかろうか? ぼくは、わがPCの故障を、太陽系に作用する、なにか、謎めいた力に求めるつもりなのだろうか?

 まさか!

 ぼくは神秘主義者でもオカルト主義者でもないのだ。そういうの、読んだり書いたりするのは好きだけど、ぼくは悪名高き現実主義者だから、タイトルどおり、これから太陽系の秘密を語ろうと思う。

 なに? PCの故障との関連性について答えてないって? よろしい。お答えしよう。

 だって、だって、気分を変えたいんだもん! 召しませMoney!2消えちゃったから、小説なんか書く気しないんだもん! それにJapanist(ぼくの使っている日本語変換)の登録辞書は復活させたけど、文節の区切りとかまで復活しないから、なんか、軽い気分で書ける(しかし、ある程度の長さの)文章打ち込んで、早くJapanistをもとに戻したいんだもん。それに、最近感想掲示板が、科学ネタが多いんで、正真正銘、感想掲示板と機能しつつ、科学ネタを書き込みできるようにするには、科学エッセイ書くしかないんだもん。

 ふう。いくつ理由をあげた? 駄々っ子風なのは気にしないでいただくとして、これだけ理由があれば、いまからぼくが、PCの故障とは無関係な、科学ネタのエッセイを書く動機には十分だろう。だれだ、いま現実逃避といったのは?(苦笑)。

 PCクラッシュの惨劇を、もっと詳しくお知りになりたかった方は、ごめんなさい。いまは思い出したくもない……というか、まだ惨劇の途中だし(涙)。

 さあ、宇宙について書くぞ!

 太陽系には、秘密がいっぱいあるけど、その中で一番興味深い秘密は、なんといっても「どうやって、太陽系ができたか」だろうと思う。

 ぼくの知る限り、多少なりとも科学的なアプローチで、太陽系誕生の過程を説明したのは、18世紀の中ごろにまでさかのぼれると思う。正確な年代と、提唱した人物の名前の資料がなくて申し訳ないのだけど、ぼくの記憶が確かならば、そのころ、いわゆる「星雲凝縮説」が誕生したはずだ。このエッセイでは、星雲凝縮説という、古くさい言葉をあえて使おうと思う。

 星雲凝縮説を簡単に言うと、むかしむかし、宇宙にガスが広がっているところがあって、そのガスが、回転しながら徐々に中心に集まっていって、太陽が誕生した。その他の惑星、つまり地球とかは、太陽に吸い込まれるのを免れた、少々のガスや塵が固まってできた。

 という感じかな。

 こいつは、なかなか魅力的な説だ。なんたって、わかりやすい。ガスが中心にあつまった。シンプルじゃないか。

 ところがだ!

 実際の太陽系(太陽)を観測してみると、どうにも、ガスが収縮して太陽が作られたという説に、具合が悪い結果が出ちゃった。

 じつは、現在の太陽は、かなりのんびり自転してるんだ。もしも、ガスが中心に集まって太陽ができたのなら、その自転スピードは、かなりの速度にならなければいけない。

 それは、なぜか?

 今度は、フィギュアスケートを想像しよう。選手が氷の上で、優雅に回転している。その選手が、伸ばし腕を体に引きつけるように縮めていくと、選手はどうなるだろうか? 答えは、ご存じのとおり、回転が速くなるわけだ。

 これと同じことが、太陽系でも起こったはずだ。拡散していたガスを、スケート選手が伸ばした腕だとしよう。そのガスが中心に集まるのだから、選手が腕を縮めたのと同じことが起こって、中心にある太陽は、徐々に回転スピードが速くならなくてはならない。

 しかし、太陽はゆっくり回っている!

 さあ、困ったぞ。この事実は変えられない。以前のエッセイでも少し話をしたことがあるけど、どうしても、角運動量の問題を解決できないんだ。

 ああ、また角運動量の話だ。感想掲示板のログNo.27(発言ナンバー1315前後)でも、角運動量の話が何度か出ている。ちょっと理解するのが難しいかもしれない。

 いまここで、角運動量について、詳しく述べる気はないけれど、ちょっとだけ説明しよう。そもそも、なんでスケート選手が、腕を縮めると、回転スピードが上がるのだろうか? それは、角運動量には、保存の法則があるからなんだ。大きく突き出した腕を、体に引きつけることで高速に回転する技は、じつは、角運動量の保存法則があるからこそ、できる技だったわけなのだよ。

 さあ、それでは太陽に戻ろう。太陽は、太陽系の全質量の99・9パーセントを占めていると考えられている。それなのになんと、系内の全角運動量のうち、たった2パーセントを分担しているにすぎない。

 これは、あまりにも不当じゃないか? 角運動量が保存されるのなら、いったい、残りの98パーセントは、どこに消えたんだ?

 もちろん消えてはいない。それは主に、太陽を回っている惑星が担っている。とくに木星は、全角運動量の60パーセントも持っている。

 これは、絶対におかしい。ガスが回転しながら中心に集まってできたのなら、ありえないことなんだ。全角運動量の98パーセントをも、ただの塵としか思えない小さな惑星たちに(太陽と比較してだけど)押し込むような理論は、だれにも思いつかなかった。

 だから、天文学者たちは、星雲凝縮説に魅力を感じつつも、その考えを放棄した。説明できないんじゃ、絵に描いた餅だもんね。

 それでも、あきらめきれない天文学者がいた。1944年(この辺からは資料があるのでご安心を)、ドイツの天文学者カール・フリードリッヒ・フォン・ヴァイッゼッカーは、塵とガスの円盤が、大小の渦巻きを形成すると考えるに足る理由を発表した。そう。渦巻きはできるらしいんだ。ヴァイッゼッカーの仮説からすると、最終的に、一番大きな渦巻きは太陽に、小さな渦巻きは木星などの惑星になるはずだった。角運動量の問題を無視するならば、それまで以上に、星雲凝縮説がうまく説明できるようになった。

 さてさて、困ったぞ。ただでさえ魅力的な星雲凝縮説に、これまた魅力的な仮説が加わって、天文学者は、なんとか星雲凝縮説をうまく説明できないかと頭を悩ませることになった。

 そこで登場したのが、スウェーデンの天文学者、ハンネス・アルヴェーンだった。彼は太陽の磁場に着目した。アルヴェーンは考えた。誕生しつつある太陽が、急速に回転するにつれて、その磁場はぎゅっと太陽に巻きつくように緊密な渦巻きになり、自転を遅くさせるブレーキの役目を果たしたのではないかと。

 何度もいったとおり、角運動量は消滅することがないので、太陽の自転にブレーキがかかったなら、あまった角運動量は惑星に渡されるほかはなく、それを太陽から遠い惑星へと押しやってしまった。

 もしも、この仮説が事実なら、星雲凝縮説の最大の問題は解決する。そして、そのほかの魅力的な条件によって、がぜん、星雲凝縮説は真実らしく思われる。

 よろしい。そのほかの「魅力的な条件」をお話ししよう。

 もしも、回転するガスが中心に集まったとしたのなら、その形は「円盤」になるだろう。球ではなく、平べったい円盤。わかりにくいかもしれないけど、球をなにかの装置でどの方向からも均一に圧縮するのならともかく、回転するガスが、徐々に中心に集まるときには、円盤状になるんだ。なるんだからしょうがない。納得してちょうだい。

 納得できませんか?

 困ったな。もう少し詳しく説明するとなれば、まずもって、回転速度が増していくと、遠心力が生まれるところから理解してもらわないといけない。紐をつけた鉄の玉を、ぐるぐる回すところを想像しよう。回転が上がれば上がるほど、鉄の玉は、外に飛び出していこうとするよね。手に持った紐を放せば、じっさい玉は遠くへ飛んでいく。まさに、それそのもののスポーツ競技があるけど、名前を思い出せない(苦笑)。

 まあいい。遠心力が生まれるところはご理解いただけたね?

 では、その遠心力は回転軸に対しても生まれるだろうか? つまり、紐の付いた玉を回している人間にも?

 いや、回転軸に遠心力はかからない。わかるよね? 玉を回している人間は、どこかに飛んで行きはしないだろ?

 どうにも、言葉では説明しにくいから、稚拙で申し訳ないけど、図を描いてみた。


 いかが? 真ん中の灰色の玉が太陽だ。ご覧のとおり、太陽の赤道面に水平になる方向には遠心力がかかるから、回転速度がまだ大きくないときは、重力のほうが勝ってガスが収縮するけれども、収縮するにつれて、系の大きさは小さくなる。すると、角運動量は保存されなければならないので、回転速度が上がる。そうなれば、遠心力がついに、重力と拮抗して収縮は止まる。つまり、この円盤の上にあるガスや塵は、もう太陽に吸い込まれることはない。

 ところが、回転軸の方向には遠心力がかからないので、この方向にあるガスは、どんどん太陽に引きつけられて、焼き肉の煙が換気扇に吸い込まれるように、消えてなくなる。

 こうして、太陽系は、太陽の赤道面に対して、水平方向にガス(物質)が残り、それが円盤状に見えるわけだ。土星の輪を思い描いてくれれば、想像しやすいかな?(土星の輪も……それどころか、ほとんどの惑星の衛星は、同じ理由で形成されたと考えられる。あとから惑星に補足されたものをのぞけばだけど)

 ふう。説明する方も疲れたけど、読んでるみなさんも疲れたかしら? でもこれで、なんとか回転するガスが、中心に集まっていくとき、その過程で円盤状になる(円盤状に塵が残るというべきか)理由がご理解いただけたろうか。わかったという人は、がってんボタンを押していただきたい。

 がってん、がってん、がってん! 

 よろしい(笑)。では先に進もう。以上のように、ガスが回転しながら中心に集まったのなら、回転軸と水平にある円盤の上に惑星があるはずだ。

 では、じっさいの観測結果を見てみようじゃないか。(下記の表は、天文年鑑2002版の数値の、小数点以下三桁目を四捨五入してある)

傾斜角 離心率
水星 7.00 0.21
金星 3.39 0.01
地球 0.00 0.02
火星 1.85 0.09
木星 1.31 0.05
土星 2.49 0.06
天王星 0.77 0.05
海王星 1.77 0.01
冥王星 17.15 0.25


 上の表で、「傾斜角」となっている部分が、いま注目すべき点だ。数字がゼロに近いほどいい(最大値は180だよ)。さあ、よくご覧あれ。

 なんと、地球はゼロじゃないか、どんぴしゃだ。ばんざーい!

 と、よろこんではいけない。これは、地球を基準にした数値なんだ。ふつう傾斜角といえば、地球が太陽を公転する軌道面に対し、ほかの惑星が何度傾いているかをいうんだ。だから、地球がゼロで当たり前。

 では、地球そのものはどうなんだ? 太陽の赤道面に対して何度傾いているんだ?

 じつは地球の軌道は、太陽の赤道面に対して7度傾いている。7度を、大きなズレと考えるか、無視していいと考えるかは難しいところだけど……

 もし、その系内に、外部から(あるいは内部の攪乱)が、まったく加わらないとしたら、7度のズレは、絶対に無視できない数値だ。しかしながら、じっさいの太陽系では、複雑な力がいろいろ加わったはずだから、7度のズレは無罪放免にしてもいいだろう。つまり、ほぼ理論どおりといえる。

 え? 納得できない? 7度のズレを説明する「複雑な力」を、もっと詳しく説明しろって?

 太陽系のできる様を、じっさいに見た人はいないから難しい注文だけど、なんとか考えてみよう。

 まず、惑星ができる過程だけど、ごく微細な塵や、ガスが行儀よく固まったと考えると、おそらくそれは誤りだろう。それらは、まず小さな凝縮が起こって、氷の塊や岩石の塊になっただろう。容易に想像がつくと思うけど、小さな塊は無数にあったはずだ。それらが群がって衝突し、バラバラになり、また群がって再凝縮し……といった過程が繰り返し起こったに違いない。しかし徐々に、凝縮する方向への流れは止まらず、ついに惑星と呼べる大きさにまで成長しただろう。

 しかし、惑星が誕生してからも、塊の衝突は収まらなかっただろう。その証拠に、水星にも火星にも(われわれの月にも)、クレーターがいっぱい残っている(火星のクレーターは、ある一面に集中しているが、そういった個々の理由について、このエッセイでは問わないでいただきたい)。

 となれば、ほぼ惑星の大きさになった塊にも、どこかから飛んできた、べつの大きな塊が、ドカンとぶつかって、その軌道にズレを生じさせたと考えるのは不思議なことではないだろう。

 これで、軌道面の傾斜角に、若干のズレがあることは、なんとか説明できそうだ。それにしては、冥王星の角度が、あまりにも大きいのが気になるが、まあ、それは後ほど説明する。

 つぎに「離心率」を見てみよう。この値は、惑星の公転が、どれだけ「円」に近いかを表している。いうまでもなく、ガスが回転しながら中心に集まったのなら、その円盤状にある惑星の公転は、円になるはずだ。これは説明しなくてもわかるよね? 遠心力は均等にかかるから(全体が一つになって、回転していたとすれば)、惑星の公転は美しい円になるはずだし、ならなくちゃいけない。これも数字がゼロに近い方がよろしい(最大値は1ですよ)。

 さあ、数字を見てほしい。ここでも水星と冥王星が気になるけど、ほとんどの惑星が「円」に近い公転をしている。

 続いて、今度は惑星の自転する向きを考えよう。公転ではなく「自転」だよ。

 もしも、系全体が一つにまとまって回転していたのだとすれば、惑星の自転は、太陽の自転と同じ向き(これを順行という)のはずだ。

 じっさいはどうか? ごく一部の例外をのぞいて、これまた、星雲凝縮説を支持するかのごとく、ほとんどの惑星が、順行なのだ。

 さあどうだ。ほとんどの惑星の軌道は、太陽の赤道面にほぼ一致し(傾斜角が小さい)、ほとんどの惑星は、ほぼ円を描きながら太陽を回り(離心率がゼロに近い)、ほとんどの惑星は太陽と同じ向きに自転(順行)している。

 これは偶然か?

 そんなバカな。偶然であるはずがない。これだけ条件が揃うためには、なにかの抑制が働いたとしか考えられないではないか。もしも、惑星が太陽とは無関係に形成されたのだとしたら、てんでバラバラの傾斜角を持ち、てんでバラバラの離心率で回ってはいけないとする天体力学的な理由はない。

 いかがだろう。状況は、星雲凝縮説に有利なようだ。というか、本当は話が逆で、太陽系の姿が、上にあげた表のとおりなもんだから、それを説明するために、星雲凝縮説が、考えられたわけなんだよ。

 お察しのよろしい方は、ぼくがこれだけ星雲凝縮説を擁護していると、そのうち「だが、しかし!」なんて書くと思っておいでだろう。

 だから書こう。読者の期待を裏切ってはいけない(笑)。

 まず、なんらかの力が加わって、軌道にズレが生じたといっても、冥王星のズレかたは激しすぎる。傾斜角は、じつに17度以上あるし、離心率も惑星中最大だ。こいつを説明するのは骨が折れそうだ。

 しかし、海王星の衛星トリトンが、冥王星の謎を解く鍵になるかもしれない。海王星は冥王星のおとなりだ。トリトンは、冥王星と内部構造がよく似ているらしい。もしかしたら、もしかすると、冥王星は、トリトンのように、むかしは海王星の衛星だったのかもしれない。それが、なんらかの強力な力によって、海王星から引き離され、惑星へと昇格したのかもしれない。(また、同じ理由で、トリトンの動きが奇妙なのも説明できるかもしれない)

 それで思い出した。一時、「太陽系第12番惑星ヤハウェ」とかいって、ちょっと話題になった惑星がある。そんなものは存在しないのだけど、人によっては、いまだにこのヤハウェが、海王星の近くを通って、そのとき冥王星を引き離したと、かなり真剣に、いや熱烈に主張している人もいる。

 もちろん、なんらかの小惑星が近くを通って、そのせいで冥王星が、海王星から離れたというのは荒唐無稽な話ではないけど……それがヤハウェだといわれると、ちょっと困る。そんな惑星は「存在しない」のだから。

 いまネットで調べたら、まだ「太陽系第12番惑星ヤハウェ」なんて本が売られてるんだね。飛鳥昭雄氏と、三神たける氏の著書だ。彼らは、地球の反対側に、太陽に隠れて見えない惑星(すなわちヤハウェ)があると主張している。ご丁寧に、NASAは、その事実を隠していると、陰謀説まで披露して、われわれの想像力をかきたててくれる。

 しかしまあ、この人たちは、おそらくケプラーの第三法則を知らないのだろう。地球の軌道はわずかに楕円だから、太陽に隠れて見えない惑星なんてものを想定すること自体が不可能なんだ。もしそこに惑星があれば、アマチュア天文家でも発見できるだろう。NASAが隠したくても無理なんだよ。

 話がズレたな。太陽系に戻ろう。

 冥王星の謎は、なんとか説明できそうだ(海王星から離れたのが事実かどうかはともかく)。これで、星雲凝縮説に対する反論はすべて封じ込めることができただろうか。

 できていない。

 ここで、冥王星に次いで傾斜角の大きい、水星や金星について語るのが順当だと思うけれど、書く方も疲れてきたから(苦笑)、それはまたべつの機会にするとして、もっと基礎的な謎(問題)に迫ろう。

 ぼくは、太陽系形成の過程で、まず塵やガスが、小さな塊になると書いた。なにげなく書いたけれども、じつは、これが本当かどうかわかっていない。いくら小さいといっても、それはそれ、惑星の種なのだから、キロメートルサイズに成長しただろうと考えられるけれど、考えられるだけで、ミクロンサイズの塵やガスが、キロメートルサイズにまで成長する過程を、うまく説明できる理論はない。

 つぎに離心率。ぼくは、太陽系がひとつの大きな集まりとして、一緒に回っていたのだから、惑星の軌道は円に近くなると書いた。本当にそうなんだろうか?

 太陽系全体の質量をいくらに見積もるかによって、シミュレーション結果は変わってくるようだけど、いま現在知られている、もっとも妥当と思われる値を入れて計算すると、惑星の軌道は、もっと楕円でなければならないかもしれない……という計算結果も出てしまった。かなり大きく成長した惑星の子供たちが、さらに衝突して、大きな惑星に成長するには、楕円軌道を描く必要があり、もしそうなのだとしたら、その軌道が、いまも残っているはずなんだ。

 この問題は、逆にいえば、水星や火星の軌道が、かなり楕円なのを説明することができるかもしれない。でも、地球や金星の、ゼロに近い離心率を説明できなくなる。というジレンマを抱えている。

 これ以外にも、まだまだ未解決の問題はたくさんある。木星や土星のような、巨大な惑星の形成が、思っていた以上に時間がかかりそうなのも、そんな問題のひとつだろう。

 というのは、太陽の赤道面に広がったガスや塵の円盤が消滅するよりも、巨大惑星の形成には時間がかかる可能性がある。もし、そうなのだとしたら、木星ができた過程を、うまく説明できない。

 まだいっぱいあるけど、専門的になりすぎるから、この辺にしておくね。

 でも、最後にもう一つだけ。

 最近になって、太陽系以外の惑星も発見され始めた。ぼくもエッセイ「惑星を探せ」を書いたけど、いままで、われわれが、そんなところに惑星なんかできないと思っていたところにも、惑星があることがわかってきた。これらは、当然、現在の太陽系モデルでは説明できない。

 となれば……太陽系モデル(このエッセイでいうところの、星雲凝縮説)の、なにかが間違っているんじゃないだろうか。いや、太陽系が、宇宙の中で特別なのだと信じる理由がない限り、太陽系の形成だけでなく、もっと、さまざまな惑星系の形成も、統一的に説明できる理論を考えるべきじゃないだろうか。いま、まさに天文学者にはそれが求められている。

 われわれは、宇宙の本当の姿をまだ知らない。永遠に知ることはないかもしれないが、知ろうとする努力は続けたいものだね。


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