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圭介はIBCコンピュータの最高経営責任者である。当然、一年の大半を、IBCの本社があるニューヨークのマンハッタンで過ごす。そんなわけで、圭介と麻里は、自分たちの新たな本拠地として、ニューヨーク郊外にも屋敷を建てたのであった。
タイガーチームのメンバーが、屋敷のロビーでコーヒーを飲みながら雑談していた。ちなみに時間は、深夜の十二時だ。
「横田くん」
と、大滝が言った。
「圭介さまは、何時になったら戻ってこられるのかね?」
「オレに聞いても無駄ですよ」
横田は眉をひそめた。
「オレたち横田チームは、圭介さまのボディガードであって、圭介さまの仕事内容をすべて掌握しているわけではない」
「その質問には、ぼくが答えられるな」
口を挟んだのは宮本だ。
「ずばり、待ってても無駄ですよ。シドニーオリンピックが終わるまで、ボスはてんてこ舞いのはずさ。なんたって、IBCは、シドニーオリンピックの公式スポンサーで、選手データの管理から、公式サイトの運営までしてるんだからね」
「言われなくても、そんなことわかっている」
大滝は、ぶせんとした表情で答える。
「わたしが言いたいのは、なぜ会長である圭介さまが、そんな雑事までこなさなければならないのかということだ」
「ふふふ。大滝さんにだってわかってるくせに」
と、笑ったのは矢野女史だった。
「それが、圭介さまの性格でしょ? IBCのオリンピックチームが、不眠不休で働いてるのを見たら、黙ってられるはずがないわ。いまごろ、上着を脱いで、ぞくぞく本社のサーバーに送られてくるデータの整理を手伝ってるわよ。エグゼクティブとしては問題あるけど、そこが、あの人のいいところでもあるわ」
「あの人ねえ」
宮本がニヤリと笑う。
「なによ、宮本くん。言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさいよ」
「言わなくても、みんな知ってるよ、矢野さんの気持ちぐらい」
「うるさいわね」
「まあまあ、二人とも」
横田が、矢野と宮本の間に入った。
「オレたちも無駄話をしてないで、そろそろ仕事に戻ろう。なにせ、つぎの獲物は、どえらい大物だ。あのルーブルから……」
「ちょ、ちょっと、横田さん!」
宮本が、あわてて横田を遮る。
「それはまだ、トップシークレットだぜ! 口を滑らせてもらっちゃ困るよ!」
「おっと。そうだった。すまん」
「ふむ」
と、大滝は、コーヒーカップを置いて立ち上がった。
「では、仕事に戻るとしよう。タイガーチームに失敗は許されない。圭介さまを、本当の意味で支えているのは、われわれだからな」
「いいこと言うわね、大滝さん」
矢野も、コーヒーカップを置く。
タイガーチームのチーフたちは、一瞬、顔を見合わせてうなずき合うと、それぞれのオフィスに戻っていった。
こうして、つぎの大仕事への準備が、着々と進行していくのである。 |
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