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降り注ぐ太陽。高い空。青く透き通る海。真っ白い浜辺。
グレニック星のクリフビーチは、まさに銀河の楽園だった。高級リゾートとして、銀河中の金持ちが集まるのも無理はない。
その浜辺を、背が高く胸の大きい女が歩いていた。右手に紫色のトロピカルドリンクを持っている。彼女の名は、リィン・ランルドルネ・ロアンズ。この広い銀河の、ごく一部では名の知れた宇宙海賊だ。
ランルドルネの後ろを、ブルーの液体が入ったグラスを両手に持った、髪の長い女がついて歩いている。彼女の名は、ファリーナ・ファンファシャル・ファロール。ランサス貿易圏にある、ロプシュア星の王女だ。
「ファル」
ランルドルネは、ファリーナを振り返った。
「ねえ、気がついてる?」
「なにをですか?」
ファリーナは、キョトンとした顔で首をかしげた。
「まわりの目だよ。男どもの」
「男の人たちの目?」
ファリーナは、ビーチにいる男たちを見渡した。確かに、ランルドルネが言うように、かなりの数の男たちが、こちらを見ている。それも、どこか物欲しそうな目で。
「すごいですね」
ファリーナは答えた。
「あの人たちみんな、ラニーを見てるんですよ」
「わかってないねえ」
ランルドルネは首を振る。
「あの中の半分は…… いや、三分の一はファルを見てるんだよ」
三分の一と言い直すところが、ランルドルネらしい。
だがファリーナは、自分も男たちの視線の的になっていると聞いて、少し驚いたように聞き返した。
「わたし…… もですか?」
「そうさ。こんな美女二人が、セクシーなビキニ姿で歩いてるんだよ。男どもがほっとくはずがない。って言うか、あたしたちに興味を示さないヤツなんて男とは呼べないね」
いささか大げさであるにしても、ランルドルネの言葉は、的外れではない。
クリシュナ人特有の純白の肌と、長く尖った耳を持つランルドルネは、身長一九六センチ、バスト九八センチという堂々たるスタイル。だが、バスト以外には、無駄な脂肪がいっさいない。バストからヒップ、そしてつま先にいたる脚線。そのボディラインは、まさに神のみが創造しえる美しさと言える。
後ろにいるファリーナは、身長一六三センチで、バストは八〇センチ。ランルドルネに比べたらなにもかも小柄だ。だが、美しさでは負けていない。ランルドルネが野生の肉食動物なら、ファリーナは可憐な花。全身若草色の肌を持つファリーナは、まさしく植物から進化した種族なのである。
「ほら、ファル」
ランルドルネは、サーファー風の(あくまでも「風」である)男を指差す。
「あいつなんか、もろファリーナ狙いだね。やあねえ、やらしい目で見ちゃって」
やあねえ。なんて言いながら、どこか楽しそうなランルドルネ。
「あの…… ラニー」
ファリーナは、いきなり自分の置かれた立場を理解し、顔を赤らめた。
「せっかく見立てていただいて、こんなこと言うのはなんですが、やっぱり、その、この水着は大胆すぎるのではないでしょうか?」
ファリーナは、ビキニなどつけたことがないのだ。しかも、ランルドルネが選んだだけあって、わりと露出度が高い。
「そんなことないって。これでもまだ大人しい方だよ」
「そうでしょうか? なんだか、恥ずかしくなってきました」
「ふふふ。なに言ってるの。ファルだって、そろそろ未体験ゾーンに足を踏み入れてもいい年ごろでしょ。なんだったら、二、三人よさそうなの見繕ってあげようか?」
「そんな、見繕うなんて」
ファリーナは苦笑いを浮かべる。
「だってファル」
と、ランルドルネ。
「このクリフビーチなら、若い連中もお金持ちばっかりだよ。よっぽど運が悪くなきゃ、変なのには当たらないさ。どう?」
「どうもこうもありません。だいたい未体験ゾーンってなんですか、未体験ゾーンって」
「まあ、お姫さまったらとぼけちゃって。わかってるくせに」
ランルドルネは、キシシとイタズラっぽく笑う。
「もう、ラニーったら。ここにいる目的を忘れないでください」
「まじめだねえ。一夏のアバンチュールに燃えるには絶好の場所なのに」
「そうなんですか? では、ケインさんにご報告申し上げなくてはいけませんね。ラニーが、浮気したがってたって」
「ファル」
ランルドルネが、こめかみに血管を浮き上がらせながらにっこり笑う。
「あんたも言うようになったわねえ。お姉さんうれしいわ」
「はい。鍛えられましたから、お姉さまに」
ファリーナも、にっこりとほほ笑み返す。
この二人が、これほど仲のいい友人になるなど、だれが予想しただろうか。ランルドルネ自身、思いもよらないことなのであったし、あの、あらゆることを的確に予想するケインも、まったく想像だにしなかった事態である。
「さあ、ラニー」
と、ファリーナ。
「冗談を言ってないで、早く戻りましょう。ケインさんが待ってますよ」
ファリーナは、さっさと歩き始めた。
「待ってよ」
ランルドルネが、ファリーナを追いかける。
「せっかく、ファリーナにも男を見つけてあげようと思ったのに」
「いいです。ラニーったら、面白がってるだけなんだから」
「あら。わかる?」
「わかりますよーだ。わたしだってそのうち……」
「そのうち?」
「なんでもありません」
「なに赤くなってんのよ。あ、もしかして、もう好きな男がいるとか?」
「いません!」
「きゃっ。ムキになっちゃって。怪しいわ。だれにも言わないから教えてよ。ねえ、好きな人いるんでしょ?」
「もうラニーったら…… しょうがないですね。教えてあげます」
「うんうん!」
「ほら。もうじき見えますよ」
ファリーナがそういうと、ビーチパラソルの下にいる、ケインとアイダルが見えてきた。アイダルは、ファリーナを守る宮廷騎士だ。
「あんたアイダルが好きなの?」
「ええ。好きですよ。ラニーが思ってる意味とは違いますけど」
「じゃあ、だれよ。あとはケインしかいない…… え? ま、まさか!」
「そうですよ。って、いったらどうしますか?」
ファリーナは、ちょっとイタズラっぽい顔で聞いた。
「だめーっ! ケインはあたしのだからね。あげないわよ!」
「うふふ。ラニーこそ、ムキになっちゃって。カワイイですね」
ファリーナは、おかしそうに笑った。
たしかに、ランルドルネに鍛えられてきたようだ。こうして、世間知らずのお姫さまから、魅力的な女性に成長していくのだろう。 |
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