Gift - illustration
森川狂史朗
ショートストーリー
 その日。バカ親父が半年ぶりに帰ってきた。
 珠美が、うちのお袋に料理を教わりたいと言うので、その日はたまたま実家にいたのだが、親父が帰ってきたのは、居間にみんなが集まってお茶を飲んでいるときだった。
「あっ……」
 と、ぼくの第一声。
「ちっ。なんだよ、生きてたのか」
「こら!」
 親父は、ドカドカと居間に入ってきた。
「なんだいまの、『ちっ』ってヤツは! 光彦、てめえ、誰のおかげで、そこまででかくなったと…… ああいかん。怒ったら腹が減った。かーさん、飯にしてくれ」
 ガクッ。
「こら、バカ親父! いきなり飯かよ! 半年もどこへ行ってたか、説明ぐらいしたらどうだ!」
「そうですよ、お父さま」
 珠美もいう。
「みんな、心配していたんですからね」
「あら」
 と、お袋。
「わたしはべつに心配なんてしてませんよ。お父さんのこと、いちいち心配してたら、身が持たないわ」
「いや、そうだけどさ」
 ぼくは、頭を抱えた。ホント、こんな親からぼくのような品行方正な息子が育ったのが信じられないよ。
「いやあ、まいった」
 と、バカ親父。
「細かい話は後だ。こちとら、出張で結婚式二つも挙げてきたんだ。飯ぐらい食わせろ」
「はいはい。いま支度しますよ」
 お袋が立ち上がる。
「お手伝いします、お母さま」
 珠美もすぐに立ち上がった。
「ありがと、珠美さん。どうせなら、今日はうちで夕飯食べていきなさいな」
「あっ、はい。どうしますか光彦さん?」
「いいよ」
 ぼくが答えると、珠美は、じゃあ、たくさんオカズ作りますね。と笑って、お袋と一緒に台所へ向かった。
「で、親父。どこへ行ってたって?」
 ぼくは、新聞を読み始めた親父に聞いた。
「あ? なにが?」
「あ? じゃないよ、あ? じゃ。あんたが、半年間消えてた理由だよ! 棺桶入れる穴を掘ってる最中に、とつぜん消えたんだろうが!」
「そんなこともあったなあ。ところで、シドニーオリンピックって何チャンだ?」
「終わったよ! とっくのむかしに!」
「マジ? かーっ、残念。見たかったなあ」
「少なくとも、オリンピックが見れるところにはいなかったわけだな。どこだよ、ボツワナか? それともアフガニスタン?」
「こらこら。ボツワナもアフガニスタンもオリンピック見れるだろうに。怒られるぞ、おめえ、そんなこと言うと」
「非常識のかたまりがよく言うよ。で、どこへ行ってたって?」
「なんか知らんが、どっかの惑星だよ。メイリンとコウキってのがいてな。メイリンかわいかったぞ」
「どこかの惑星? 言うにことかいて、また非常識なことを」
「ふん。妖怪と結婚したヤツに、非常識とかいわれたかないね」
「うっ…… いまいち反論しにくい言われようだが、そういうこと言うのか、あんたは、自分の息子に」
「おう悪いか。考えてみりゃあ、おめえが一番非常識だぜ」
「おーい、珠美! 親父の食事用意しなくていいぞ!」
「こらこら、光彦、おめえってヤツは、親を飢え死にさせる気かよ!」
「どうやったら、あんたを殺せるのか知りたいよ。首を切り落としても、また生えてきそうだ」
「オレは、遊星からの物体Xか!」
「あっちのほうが、親父ギャグをぶちかまさないだけ、まだマシだ」
「うわあ。どーして、こんな親不孝に育っちゃったんだろね、おまえ」
「親父。その言葉、すっごく、説得力ないよ」
「そう?」
「頭痛いよ、オレ……」
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