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ゲンたち 第四夜
ショートストーリー
 六年前。ぼくがまだ中学生だったころ、大好きだったお爺ちゃんが天国に行った。行ったと思う。たぶん。いまごろは、お婆ちゃんと仲良くやってると思う。たぶん。うーん。お爺ちゃんのことだから不安だなあ。まあ、どこへ行っても、あの人なら大丈夫だと思うけど。

 で、いま、ぼくの隣では、向井佳子が、うちのお墓に向かって手を合わせてる。お爺ちゃんが亡くなってから、毎年二人でお盆にはお墓参りしてるんだ。お爺ちゃんの大好物だったお饅頭を持って。

「お爺さん」
 佳ちゃんが手を合わせながら言った。
「なんだかんだ言って、今年も翔太と別れなかったよ。やっぱり、あんたのおかげかな」
「ちょ、ちょっと、佳ちゃん」
 ぼくは横から口を挟んだ。
「なんだかんだ言って別れなかったって、そりゃないよ」
 目を閉じていた佳ちゃんがぼくの方を見る。
「なによ。当たってるジャンか。翔太って、いまだに優柔不断なとこ直ってないんだから」
「佳ちゃんがハッキリしすぎてるんだよ」
「そんなことない。あたしが普通だ。だいたい、いつになったら、ユニバーサルスタジオ・ジャパンに連れていってくれんのよ」
「まだ混んでるってば」
「ほら。優柔不断だ」
「あのね…… 佳ちゃんって、意外と遊園地好きだよなあ」
「意外ってのはなによ、意外ってのは」
「いや、だってむかし、佳ちゃんは…… ははは。なんでもない」
「すぐ誤魔化す」
「じゃあさ。これから美味しいもの食べに行こうよ。おごるから」
「だーめ。バイトのお金、そんなことに使うなよ。翔太はお金を貯めて、あたしを旅行に連れて行く義務がある」
「だったら、お昼はどうするのさ?」
「うちで食べればいいジャンか」
 と、圭ちゃん。
 じつは大学に入ってから、ぼく、一人暮らしを始めたんだけど、ぼくの部屋で、圭ちゃんと半ば同棲みたいな感じで暮らしてるんだ。
「また、ソーメンだろ」
 と、ぼく。
「文句ある?」
「よし。言うぞ。ぼくだって優柔不断じゃないんだ」
「な、なによ、急にいばっちゃって」
「もう、佳ちゃんのソーメンは飽きた。って言うか、だれが作ってもソーメンはソーメンだよ。ぼくは、断固として、冷やし中華を要求する」
「うっ…… 作ったことないよ、そんなの」
「ふーん。旅行に行きたくないんだ」
「卑怯者」
「なんとでも。どうする。作ってくれる?」
「くそう。わかったよ。作りますよ。その代わり、マズくても食えよ」
「佳ちゃんの作ってくれた料理は、なんでも美味しいよ」
「バ、バカ」
 佳ちゃんは、ちょっと顔を赤らめながら、ぼくの腕を抱いてきた。
「じゃ、スーパー寄ってから帰ろ、翔太」
「うん。スイカも買おう」
 ぼくたちは、お爺ちゃんのお墓の前をあとにした。

 そのころ。草葉の陰。
「うひひ。なんだかんだ言って、うまいことやっとるようじゃな、翔太のヤツ」
「そうですねえ、お爺さん」
 さすがお盆。お婆さんもいた。
「でも、お爺さん。あの佳子って女の子、まだまだ料理が下手ねえ」
「そうじゃな。翔太も、よく食えるわい。あんなもん」
「わたしゃ、心配ですよ」
「だったら、今度はおまえが化けて出て、佳子に料理を教えてやったらどうじゃ?」
「あら。それいいかも。あの子にダシの取り方教えてあげなきゃね」
「うはは。天国ってのも楽しいもんじゃな」
「そうですねえ」
 二人の老人は(の幽霊)は、楽しそうに笑うのであった。
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