シックス・センスという映画をビデオで見ました。ブルース・ウィルスが主演なんですが、彼よりも、子役の演技が素晴らしかったと言われた映画。なるほどその通り。どんな映画なのかバラすとブルース・ウィルスに怒られるので語りませんが、ストーリーも映像もよかったですよ。この手の映画は大好きです。
さて。なんの脈略もなくテーマを決めているこのエッセイですが、今回もまた、大した脈略はありません。シックス・センスを見ていたら、最後のほうで、アーサーが石につき刺さった剣を抜く劇をやっていたんです。知ってますか? 有名なアーサー王伝説の中でも、とくに有名なシーンですよね。だから、アーサー王について書きましょう。(ホント、脈略ないよね)
え? 急にアーサー王なんて言われても、そんなヤツ知らない? しょうがないなあ。じゃあ、広辞苑を引いてみましょう。
アーサーおう‐ものがたり【―王物語】 |
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(Arthurian romances) 六世紀のウェールズの武将、のちブリタニア王アーサー(Arthur)(実在か否か不詳)と円卓の騎士たちとを主人公にした武勇と恋愛の物語。古く九世紀初めの文献にその名が見え、一二世紀以降、フランス・イギリス・ドイツ三国を中心にヨーロッパ全土に伝播。中世後期にはトリスタン伝説や聖杯伝説も混入して韻文・散文の物語が成立。イギリスでは一九世紀の文学・絵画に復活、現代では映画やミュージカルにも登場。円卓物語。 |
だそうです。円卓の騎士なら聞いたことあるでしょ? 有名なランスロットとか。しかし、とくにご注目いただきたいのが「武勇と恋愛の物語」ってとこ。武勇はともかく、恋愛ってのが気になりますなァ。ふふふ。そうなんです。出てくるんですよ、美女が。
というわけで、行ってみましょう、アーサー王の世界へ。もちろん、美女に会いに!
とはいえ、まずは、ざっと物語を語らねばなりますまい。(これが、いつも面倒くさいんだが)
あるとき、信仰の厚い女性が身ごもります。父親は大気の精霊。ここからしてすでに、変なヤツが生まれてきそうな気配が濃厚ですが、はい、そうです。魔法使いが生まれちゃいました。彼の名はマーリン。焦っちゃいけない。彼は男ですよ。(まだ美女はお預け)
さて。ブリタニア王であったユーサーは、宮廷で開いたパーティで、ひとりの美しい女性に恋をしてしまいます。彼女の名はイグレーヌ。しかしイグレーヌは、ゴーロイスという騎士の妻でした。ユーサーは、そんなことおかまいなしに、イグレーヌに迫ります。困った(というか非常に迷惑した)イグレーヌは、夫に訴えます。ゴーロイスは怒りましたよ。ユーサーは自分の主君なんですけど、愛する妻を取られてはたまらない。
そんなわけで、ユーサーの臣下をやめたゴーロイスと、ユーサーの間で戦争が起こります。女性をめぐって戦争を始めちゃうところが、いかにも物語ですが、でも実際に、そういう戦争って、むかしはあったような気もしますね。女の美貌は恐ろしい武器ですな。
ユーサーは、ここで魔法使いマーリンに相談します。
「いいでしょう。王の願いを叶えて差し上げよう。その代わり、イグレーヌとの間に生まれた子供は……いや、じつは、あんたとイグレーヌって、一発で子供ができちゃうんだよね。そんで、その子は、わたしに育てさせてもらいたい」
ユーサー王はこれを聞き入れます。そこでマーリンはユーサーに魔法をかける。その魔法とは、変身の魔法。で、ユーサーをだれに変身させたかと言うと……イグレーヌの夫、ゴーロイスです。これって、どっかで聞いたことなかったか? あのゼウスもこんな方法で、浮気しなかったか? 神様も王様もセコイことするよねえ。
まあいい。まんまとゴーロイスに化けたユーサー。イグレーヌは、コロリと騙されて、夫(じつはユーサー)とベッドに入り、いたすことをいたします。ここで彼女は身ごもる。
もうわかってきましたね、このときできた子供が、アーサーなんでございますよ。
そののち、ゴーロイス(本物)はユーサーに敗れて死んじゃいます。ユーサーとの和解を望んだ臣下に説得されて、イグレーヌは、渋々ユーサーと結婚します。で、しばらくして男の子が生まれます。
マーリンは、王との約束通り、この子供を密かに連れ去り、騎士エクターに預けます。その子は、アーサーと名付けられました。その二年後。ユーサーは病死。ブリタニアは王位をめぐって乱れます。
アーサーが十五歳になったある日。ロンドンで一番大きな教会の祭壇に、大きな石が現れます。そこには剣が突き刺さっていた。そして、こう書かれていたのです。「この剣を抜いた者が、正当な王である」と。当然、みんな挑戦しますが、だれも抜けません。
だれも剣を抜けないまま、正月の武道大会が始まります。このときアーサーはまだ騎士になっていなかったので、兄であるケイのつき添いでした(ケイは、エクターの実の息子です)。ところが、ケイは自分の剣を忘れてきたことに気づきます。武道大会に出席するヤツが剣を忘れるか? などと、突っ込んではいけない。ケイは弟のアーサーに、剣を取ってくるように命じます。アーサー少年は、あわてて家に戻りましたが、家のものがみんな外出して中に入れない。困った。兄さんの言いつけを守れない。焦ったアーサーは、そうだ、たしか教会の祭壇に剣が刺さった石があったっけ。と、思い出して、教会に走ります。すると、だれも抜けなかった剣が、スルリと抜けました。
これで自分がこの国の正当な王様だ!
と、普通は考えるところですが、そこはそれ純朴なアーサー少年。やった、兄さんに剣を持っていって上げられる。と喜んだのでした。こいつ、バカだ。字が読めんのか、字が! 「剣を抜いた者が王様だ」って書いてあるだろうが! ったく、これだから伝説って嫌いだよ。
などと愚痴ってても仕方ない。無事、兄に剣を届けたアーサーですが、兄の方は、この義理の弟ほど正直者じゃありません。すぐにこの剣は教会の石から抜いたモノだと気づき、父である、エクターに申し出ます。「ぼくが剣を抜きました!」と。
ところが、このエクターという男は、騎士道精神に溢れるヤツでした。実の子供であるケイを信じなかった。だって、アーサーを預かった日から、アーサーが只者ではないことを承知していたからです。そこでケイに言います。一度、その剣を石に戻して、もう一度抜いてみろと。もちろん、ケイは二度と抜くことができません。そこで仕方なく、じつはアーサーが持ってきたのだと白状します。エクターは、それを聞いて、アーサーに剣を抜かせたところ、簡単に引き抜けたのでした。(誤解のないよう書いておきますが、この剣は、かの有名なエクスカリバーじゃありません)
「おお! アーサー……いや、アーサー王!」
エクターとケイは、その場でアーサーにひざまずいたのでした。ここが、シックス・センスで、子供たちがやっていた劇のところですね。
さてさて。噂はあっという間に広まり、アーサーは騎士となり、そのあとすぐ戴冠を行って正式に王となりました。(すいませーん。この辺、かなり説明を省略してます。ご容赦を)
字も読めないバカ者……失礼。正直者のアーサーは、立派な王様になりました。王位継承で乱れていたロンドン周辺の治安を回復するため手を尽くし、北部の敵国も優れた武力で征服したのです。アーサーに対して、王位継承を疑っていた諸侯も、これで黙りました。
ところが、この若くそして強い王様には王妃がいなかった。そりゃそうだ。十五歳で王様になって、それから国政や戦争に忙しく、恋をしてる暇なんかなかったんですから。でも、アーサーはいまや、立派な王様であり、なにより、素晴らしい青年なのです。
ここでまた魔法使いマーリンが登場。アーサーの后に、カーマライドのローディガン王の娘に目をつけます。彼女の名はギニヴィア。
ついに美女登場!
ギニヴィア。彼女はアーサーを愛し、そして彼女自身アーサーの寵愛を受けながらも、けっきょくアーサーを裏切り、その死の原因を作って、国を滅ぼした女性!
うはあ、なかなか、いませんぜ。ここまで王と国の運命を左右した女性も。マーリンもまた、とんでもない女性を探してきたもんだ。
さてさて。二人の運命はのちほど語るとして、ちゃんと出会いから書きましょうね。彼らの出会いは戦争でした。当時ギニヴィアの国、カーマライドは戦争の真っ只中で、しかもかなり劣勢だったのです。アーサーは、マーリンと三十九人の騎士を引き連れて、カーマライドに赴きます。
マーリンは、アーサーたちを外で待たせ、ローディガン王の宮殿に一人で入って行きます。そして、ローディガン王に奇妙な提案をする。「この戦争にお力をお貸しするが、われわれの正体は、時がくるまで秘密にさせていただきたい」。まあ、だれだろうと、戦争に力を貸してくれるならいいやと、ローディガンは承知します。
でも、なんでそんな提案をしたのか? ふふふ。マーリンはストーリーテラーなのです。この提案は、アーサーとギニヴィアの劇的な出会いを演出する準備なんですねえ。
そんなわけで、謎の騎士として戦争に参加したアーサーは、もちろん大活躍をするんですが、混戦のさなか、ローディガン王と娘のギニヴィアが、敵に捕まってしまいます。マーリンは、ここぞとばかりに、アーサーにそのことを伝える。「なに、そりゃイカン!」とばかり、アーサーは、すぐに助けに行きました。そして、そして、そこにはギニヴィアとの運命の出会いが待っていたのでした。
「ああ……もうダメだわ。ここでお父様とわたしは殺される。カーマライドは滅んでしまうんだわ」
絶望にくれるギニヴィア。そこへアーサーが登場! あの謎の騎士だ! アーサーはギニヴィアの目の前で、コーラングという三十メートルもある巨大なバケモノと一騎討ちをして、見事にそいつを打ち破り、ギニヴィアを救ったのでした。これ以上の演出があるでしょうか? もちろんアーサーはマーリンのお膳立てなんてことを知らず、真剣に戦ってるわけだし、ギニヴィアも知りません。それどころか、アーサーが王だということも。
「なんて、素敵な人なんでしょう。この人がわたしの夫になる方に違いないわ」
ギニヴィアは、もうアーサーにうっとり。もともとアーサーはギニヴィアを妻にするためにやってきたんだから、ギニヴィアに気に入られて大満足。ローディガン王も、アーサーが何者であろうとも、娘の夫に相応しいと認めました。
憎いね、マーリン。作戦は大成功だよ。
で、じつはアーサーがブリタニアの王であるとわかってからは、それこそローディガン王は大喜びで、この結婚は、ギニヴィアとアーサーたち自身はもちろん、すべての人に祝福されたのでした。
が……
ここで次回に続く。って言ったら怒る? でも言っちゃう。次回に続きます。